2010年12月23日木曜日

アメリカン・ビューティー


1999年・アメリカ
監督:サム・メンデス
製作:ブルース・コーエン、ダン・ジンクス
脚本:アラン・ボール
出演:ケビン・スペイシー、アネット・ベニング、ソーラ・バーチ、ウェス・ベントリー、ミーナ・スヴァーリ
 
 今回、サム・メンデス監督」による『アメリカン・ビューティー』。『アメリカン・ビューティー』、それは妻が植えて育てている、そして室内にも飾られているバラの品種の名前です。そして、もう一つの意味は「アメリカの美」ですね。しかし、「アメリカの美」という美しいタイトルとは逆に、そこに描かれるのは、崩壊した家族の実状です。

あらすじですが、以下になります。
広告代理店に勤め、シカゴ郊外に住む42歳のレスター・バーナム。彼は一見幸せな家庭を築いているように見える。しかし不動産業を営む妻のキャロラインは見栄っ張りで自分が成功することで頭がいっぱい。娘のジェーンは典型的なティーンエイジャーで、父親のことを嫌っている。レスター自身も中年の危機を感じていた。そんなある日、レスターは娘のチアリーディングを見に行って、彼女の親友アンジェラに恋をしてしまう。そのときから、諦めきったレスターの周りに完成していた均衡は徐々に崩れ、彼の家族をめぐる人々の本音と真実が暴かれてゆく。

 本作は、アカデミー賞監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞など5部門に輝いています。観た後の率直な感想ですが、この作品は完成度が高い。とてつもない衝撃を受けました。アカデミー賞をとるのも無理はない。

 この作品の登場人物は、当時(1999年ですが、現在にも大いに言えるでしょう。)のアメリカの典型的な人間たちです。リストラにかけられそうな夫に、仕事をバリバリこなすことでキャリアを必死で築き上げ、貧しかった子供の頃を買い占めるように高級家具を買う妻。あまりの物的裕福さに心の幸福が見えなくなっている「普通の」娘。兵士であることを誇りに思うとともに、そのために精神的な「ひずみ」を持つ男、マリファナを売りさばくその息子(彼が手に持って趣味にしているのはビデオ・カメラ)。夫のDVで自閉症になってしまった兵士の妻。「普通」を極端に恐れるアイデンティティを失いそうな少女。そのほか、ゲイのカップルや、日常に不倫や銃が浸透しているアメリカ社会を見事なまでにひとつの物語に仕立て上げています。

 本作は、アメリカ中流家庭の破綻した夫婦、交流のない親子を描いています。しかし、この映画で描かれる家庭は、特別なのでしょうか。決してそうではありません。むしろ、典型的なアメリカアッパーミドルの家庭といえましょう。そしてその家庭の崩壊・・・。それに対して、タイトルの「アメリカの美」。つまり、『アメリカン・ビューティー』は、経済的に隆盛を極めるアメリカ社会に対する痛烈な皮肉になのです。

 そして、もうひとつ本作で注目すべきは、劇中白人しか出てこないということです。通常、多民族社会であるアメリカのハリウッド映画では、黒人、ユダヤ系、イタリア系、プエルトリコ系など様々な人種が登場するはずです。しかし、特にアメリカ社会を描く本作品に限って、一貫して、白人しか登場しないのです。

 これは、多民族国家アメリカといわれるものの、20世紀における隆盛は、白人主導のものであり、それがもたらした快感原則、幸福原則が、突き詰めていくと、実際、なんら精神的安定を生み出さなかったことを意味しているのでしょう。



 う~む、ぞくぞくするぐらいのシニカルさ。


 本当の幸せとは何か、本当の家族のあるべき姿とは何か、再考させてくれる逸品です。
 

 またケビン・スペイシーのおぞましさを感じるほどの演技も一見の価値ありです。

 そして、悲しいことは、1999年に描かれたアメリカの現実が、2010年の日本においてぴったりと当てはまってしまうことです。それもそのはずですよね。日本に持ち込まれたのも白人主導の資本主義という価値観。





それでは、2011年が本当の『ジャパニーズ・ビューティー』いや、『ワールド・ビューティー』が実現する年である事を願って・・・。


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