2010年12月11日土曜日

イントゥ・ザ・ワイルド


製作国・年度:アメリカ・2007
上映時間:148分
監督:ショーン・ペン
出演:エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン、キャサリン・キーナー、ヴィンス・ヴォーン、クリステン・スチュワート、ハル・ホルブルック

 第4回『イントゥ・ザ・ワイルド』。ひとまず、クリスマス特集は、お休みで。いや~、というのも、日ごろの自分の生活を徒然なるままに、考えてたところ、半年以上前に観たこの作品がふと頭を過ったのです。時間がたってもふと頭をよぎるということは、少なからず僕に影響を与えている作品と言えます。「生きる」とは、どういうことを意味するのかを教えてくれる数少ない作品の一つでしょう。(そういう意味では、黒澤の『生きる』に匹敵?)
 特に、あなたが少しでも現代社会に息苦しさを覚えたり、心のどこかで自分の仕事や生活に、偽善やごまかし、「何かが本当じゃない」という思いを感じたり、壊れかけのラジオに本当の幸せを尋ねていたら、ぜひ、この映画を観ることをお勧めします。
 
 そもそも、これは1990~92年、アメリカ各地とアラスカで実際に放浪と野宿生活を送った若者の実話を映画化したロードムービーです。ソロー、トルストイ、ジャック・ロンドン、バイロンなどを愛読した彼は大学卒業後、抑圧的な両親や人間社会の偽善、悪を嫌い、「究極の自由」や「真理」を求めて家を出ます。主人公は名前すら捨てて体ひとつで、アメリカ大陸を放浪し、最終的に彼はアラスカへと向かうのですが、旅先での人々の出会いがいちいちすばらしく、そして景色が圧倒的に美しい。聞けば撮影は、『モーターサイクル・ダイアリーズ』を手がけたエリック・ゴーティエとのこと。若者のあり余るほどのエネルギーを、きらきらと輝く雄大な景色に投影させる手腕はお見事。青春ロードムービーにエリック・ゴーティエあり、といった感です。

 主人公は、旅に出る際に、クレジットカードを捨て、ソーシャルセキュリティーカード(アメリカで真っ当な市民生活を送る上で基本となるIDカード)を捨て、貯金をすべて慈善団体に寄付して行きます。ここで痛感することは、日ごろ私たちが生きるよりどころとしているものが社会のシステムに過ぎず、あまりに簡単に断ち切れてしまうことです。

そして、その対極として描かれるものは、自然でしょう。その雄大さは思わず息を飲みます。「金も名誉も平等もいらない。僕が求めているのは真理だ」そう言い残し、すべてを捨てて荒野へ旅立った青年も自然の前ではちっぽけの一匹の動物に過ぎず、弱肉強食、自然の摂理をみをもって体験させられます。彼が体験した生まれて初めて悲しかった出来事は、あれ程に無駄な物の洪水に嫌気がさして大自然へと身を投じたのに、彼自身が無駄を生み出したことでした。(観ていただければ、分かります。)彼にとって最大の皮肉と言えます。

過去にもあった、名作ロードムービーの多くは、主人公の右肩上がりの成長を描いていますが、本作は一見、右肩上がり、しかし、実は目に見えない右肩下がりの透明な部分が描かれていたことに、最後に気付かされます。

クリスが強靭な心で、1人生き抜いていく姿は、実は、社会に適応できなくなっていた弱い姿だった。それゆえ、ラストはあまりの悲しさに涙が止まりません。
最後に彼が口にした言葉とは・・・。 最後に何を思い彼は逝ったのか・・・。
彼が最後に気付いた人間にとって一番大切なものとは・・・。

人間ドラマでありながら、少しずつ解明されるミステリーのごとく、見る側を引き込んでいくその手法は、ショーン・ペンならではの、見事なテクニック。ショーン・ペンが破滅へ向かう孤独な若者を描くニューシネマの後継者と言われる所以がここにあります。

自然、本、音楽、知り合う人々、日記、主人公とその回りに張り巡らされた綿密な映像とヒントを絡め、“親子” というテーマに迫った、実に見事な作品だったと思います。

学生の僕が言うのもなんですが、絶対に若いうちに観ておくべき作品です。

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