2013年10月27日日曜日

凶悪



久しぶりの投稿は、『凶悪』。

ピエール瀧とリリー・フランキーの「怪」演、若松孝二の愛弟子白石和彌監督の「怪」演出が話題となっている今作。観てきました。実際の事件「上申書殺人事件」を下敷きにした本作。これが歴史に残る犯罪実録モノでしたので書かずにはいられませんでした。

1.祭りとしての「殺人現場」




 『凶悪』でまず話題となるのは、ピエール瀧演じる死刑囚ヤクザ、須藤でしょう。ピエール瀧さんはバラエティやドラマなどではのほほんとした役回りが多い中(『あまちゃん』での寿司屋の大将とか)、これまでとは異なる粗暴で凄みを見せています。昔からの電気グルーヴファンなら今更泥臭さに驚かないかもしれませんが、日の浅いサブカル好きは、ぜひ悪趣味ヤクザファッションに身を包み、凶悪の限りを尽くす姿を見てほしいです。
 そして「先生」役のリリー・フランキー。相変わらず素晴らしく生々しい。金銭欲から殺人に傾斜していく中で、人を殺すことに楽しげな興味を持ったりする。ナチュラルな好奇心によって殺人鬼を奇妙な人間味を醸し出したりする。リリーさんのやりすぎない演技で本当にそうゆう人にしか見えません。

 でも一番の凶悪なところは、この2人によって引き起こされる殺人現場が一種の「祭り」というエンターテイメントとして描かれるところと、観ている方もそう感じるつくりです。

 そもそも、『凶悪』で描かれる悪は、実に薄っぺらく、卑近な現実です。映画には多くの殺人鬼が登場します。『ダークナイト』のジョーカーのような悪のカリスマや、ヒッチコック『サイコ』のマザコン女装殺人者、『セブン』のジョン・ドウのような世直し的な殺人鬼などなど。しかし、現実の殺人自体はもっと物理的で、味も素っ気もフェティシズムも特別な思想のかけらもない、実に即物的な行為。人が人を殺すには、それなりの理由と意味があるはずだ考えてしまいますが、『凶悪』にそんな心地のいいロマンティシズムは存在しません。

 そんなわけで、この2人が引き起こす殺人は、まるでサラリーマンで言うところの1つのプレゼンをこなすようなもの。お金儲けのひとつの手段です。それ故、殺人現場は一種のお祭りとして感じるように描写されています。
 瀧さん演じる須藤の口癖は、「ぶっ込む!」。須藤にとってのすべての動詞(「殺す」含めて)が「ぶっ込む」で統一されています(苦笑)

今年の流行語は、「じぇじぇ」でも「倍返し」でもなく、「ぶっ込む」です。


2.北関東の荒野



 『凶悪』を映画として魅力的に引き立てている要素、それが舞台となる北関東の荒野です。

 2人目の犠牲者となる老人(生き埋めされたうえ、身代わりをたてられて勝手に土地を売られてしまう)のものだった土地は、高圧鉄塔の下にただ駐車場としてひろがっています。山田孝之演じる主人公である記者は、そこに呆然と立ち尽くします。何もない場所。億の金をめぐって人が殺された。それならば、何かの痕跡があってもいいだろう。憎悪や怨念の残骸が。しかしそこには何ひとつ存在しない。からっぽで何の感情のひっかかりの残っていない。

 またそこには欲望以外何も持たないからっぽな人間だけが生きています。リリー・フランキー演じる先生も、ピエール滝演じる須藤も、須藤の情婦である静江も、須藤の転落のきっかけとなるケンちゃんも、被害者の家族も。主人公の藤井だって、知りつつも認知症の母を妻に押し付け家庭を破滅に追い込むからっぽな生き物とも言えます。

 残っていない場所でからっぽな人間がただただ生きている。

 ただ、それだけ。

 それだけで、いやそれだからこそ、なんとも豊かな映画であるか。夢も希望もないまま、欲望だけで動く人間。その姿を恥ずかしげもなく赤裸々に切り取ったからこそ、『凶悪』は傑作なのだと思うのです。そして、こうゆうのを観に映画館に行っているのです。


3.最後に

 『桐島~』『先生を流産させる会』『あの娘が海辺で踊ってる』『横道世之介』・・・。 いやーしかし、2012年から邦画、ゲキアツです。

 リリーさん出演『そして父になる』と一緒に見て感情のコントロールをおかしくさせるのがこの秋にすべきことですね。

 大学時代に部活で撮ったの映画に主演していただいた外波山文明さんの建築業者も凄くいい味出されてました。

 あー映画つくりたいネ!!!


2013年5月3日金曜日

シュガーマン 奇跡に愛された男



5/1@渋谷シネパレス

 会社員になっても映画観ます!ブログ、バリバリ更新します!

 で、本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門賞を受賞した作品。

 『シュガーマン』という人のドキュメンタリーかと思ったら、それは歌のタイトルで、70年代にリリースされたその歌を歌ったロドリゲスという人のドキュメンタリーでした。ドキュメンタリーってことでちょっと遠ざけちゃうけど、『シュガーマン」はそこら辺のフィクションよりも数倍ドラマチックで数十倍泣ける。

アメリカのシンガーソングライター、ロドリゲス。彼はアメリカでは全くの無名。一方、南アフリカでは曲がヒットし国民的アイドルとなった、という極端な落差をもつ不思議なミュージシャン。そしてこの落差が物語の動力源でもある。

そもそも基本的なドキュメンタリーの語り口は、とある人物にスポットをあて、直接的な肉薄した映像をゴロっと提出し、それが醍醐味だったりする。しかし、この『シュガーマン』では当該スポットを当てる人、ロドリゲスさんが消息不明。つまり、前半、70年代を彼と共に過ごした関係者が今は行方不明の人物について語るという形で映画は進む。

さらに彼らはもう老人だ。実現されなかった夢を夢見る人の悲しみと憂いと郷愁に満ちている。しかしどこか若々しくも見える。瞳は少年のようにさえ見える。実現されなかった夢を、自分の中に生きるロドリゲスだけが実現してくれる、そんな年月がねじれさせた希望が、彼らの言葉と表情をつくっているのかもしれない。

もちろん、これはロドリゲスのドキュメンタリーなので、映画はそれだけでは終わらない。後半はロドリゲスという夢に生きる人々と打って変わって、ロドリゲスという現実が登場する。その対比がパズルを埋めるように更に物語をつくって行く。

この『シュガーマン 奇跡に愛された男』は、究極的に表現する人のあるべき姿って何だろう?という問題への丁寧な考察でもある。

 歌はそれを聞いた人たちの中で生き続けるのだ、そんなことを言いたくなる映画。泣けた。



2013年1月1日火曜日

2012年ベスト10、選びました。

明けましておめでとうございます。いきなりですが2012ベスト10やります。記事書いてたら年明けちゃったんです。新年早々2012年の映画を振り返ってみましょ。

2012年映画界は祭りな1年だったと思います。目立つところで言うと、『ダークナイト』シリーズ完結、『アベンジャーズ』超絶大ヒット、『プロメテウス』正統エイリアンシリーズ復活、『スカイフォール』007の復権…などなど。こりゃ、祭り。

しかし、そんな祭りすらかすんで見えるほど存在感を示しちゃったのは、あいつ。桐島です。もう2012年は「桐島の年」と言っていいかと。青春映画において、「桐島前と桐島後」という基準すら作ったと思います。そんな中、俯瞰して2012年を見たとき、邦画とインディーズ映画が1つ次の段階へ進化したことに気づくのです。おもしろき年なり、2012年。
 
ではでは、さっそく行きましょ。2012年、ベスト10!





第1位 『ベルフラワー』



1位!!!『ベルフラワー』!!!
究極のオナニーという映画の超根源的姿!!!

2012年のベストはこの映画以外考えられません!

『マッドマックス2』の世界を愛し、悪の首領ヒューマンガスに憧れる親友同士のウッドロー(エヴァン・グローデル)とエイデン(タイラー・ドーソン)。因みにこの2人はニート。日々プロパン爆破実験や火炎放射器の破壊力追求に明け暮れ、『マッドマックス2』のような滅亡後の世界(北斗の拳みたいな世界)が来ることを信じ、その世界を支配する未來を夢見てます。まさに、究極の厨二やん!そんなある晩、ウッドローはミリー(ジェシー・ワイズマン)という女と出会い、思いがけなくも激しい恋に落ちます。しかし彼女は彼を裏切ります。それを知ったウッドローは、怒りと絶望から正気を失い、火炎放射器を手に狂おしい妄想の世界へと突き進んでいくのです。

桐島の映画部オタクたちは高校生ってことでまだちょっとかわいげがありますが(僕もまだね…)、これは本気で北斗の拳みたいな世界が来ると信じるニートたち。もう悪質度が違います。

監督、脚本、製作、編集、そして主演を務めたのは、現在31歳のエヴァン・グローデル。自らの失恋体験をベースに脚本を執筆。収まらない怒りと悲しみのヴォルテージをこの映画に叩き込み、長編映画監督デビューを飾りました。有り金すべてはたいて(彼自身映画監督志望のニート同然の男だった)、制作プロダクションをつくり、映画に出てくるメカや改造車をつくり、果ては撮影カメラまでつくちゃったという。まさに恐るべきインディペンデント魂。4年間自主映画のそばにいた僕は涙がとまりません。そのおかげで、滲んだ色彩と深い陰影、ぼかしたピントなどの効果が、他の映画では見られないサイケデリックでシュルレアリスティックなヴィジュアルを実現しています。

何かを失っていないとものづくりはできない。その教訓を刻み込んでくれると同時に、希望をくれた作品です。『ベルフラワー』に出会わせてくれたシアターNに心より感謝します。

 




第2位 『桐島、部活やめるってよ』


はい来ました!2位桐島ー!!!桐島ー!!!
言わずもがなです。周りの友人、映画好きなヤツ・そんなに好きじゃないヤツ問わず強引に観させました。観た後誰かと話さないと頭おかしくなりそうになりますからね。

ラストの屋上ゾンビ大殺戮シーンは、僕の高校時代の亡霊の鎮魂になりました。







第3位 『きっと ここが帰る場所』



4位『きっと ここが帰る場所』。1度劇場で観て数日後、麻薬的に再度鑑賞したくなる映画にたまに出会う。初めはショーン・ペン好きだし一応観とくかーってノリで行ったのですが、気が付いたら3回劇場に足を運んでいました。

果たしてこの映画の何がそこまでさせたのでしょうか?

この映画はまず、ショーン・ペン扮する初老の元ミュージシャンの皺だらけの顔を見つめるところから始まる。過去の輝きを失った彼の現実を皆でじっと直視して、その皺とそこに刻まれた痛みと哀しみを皆で共有する。その決定的な何かを見ることの居心地の悪さと無力さを、そこにいる観客が全力で受け止める。全編にわたって描かれるのは結局それだ。多くは、痛みとか悲しみを描くとき、くさくなったり涙の押し売りっぽくなったりするけど、この映画は違う。ちゃんとそれに向き合ってこの映画にしか味わえない空気感にまで昇華している。それを味わうことががこの映画を観ることそのものかもなと思ったり。






第4位 『ミッドナイト・イン・パリ』


3位、『ミッドナイト・イン・パリ』!6月にこのブログにも投稿しましたが、やっぱ『ミッドナイト・イン・パリ』最高です。ついこの前も日比谷シャンテにて『恋のロンドン狂想曲』観て来ました。(実は『ミッドナイト・イン・パリ』の前作)おもろい!ウディ・アレン、御年77歳にてこの脂っこさ!2005年の『マッチポイント』以降、2度目の黄金期来てます!来てます!

僕もこんなエロ親父になりたいです。

 





第5位 『ドライヴ』


5位、『ドライヴ』。名前はない。家族はない。過去は語らない。感情は表に出さない。生業は車の修理工だが、昼はカースタントマン、夜は強盗犯の逃走請負ドライバーの顔を持つ。

主人公は『荒野の用心棒』、『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』を彷彿させる。速度がある上にダークでディープな味わい。どん引くほどバイオレントだけど酔いしれるほど上品な語り口。何なんじゃこの映画はあ!いままで観たどんな映画にも当てはまらない『ドライヴ』の衝撃は、童貞喪失並み。







第6位 『おおかみこどもの雨と雪』


6位、『おおかみこどもの雨と雪』。細田守監督のアニメーション。『サマーウォーズ』もかなり周囲でかなり話題になっていましたが、個人的にそこまで入れ込めませんでした。しかし、『おおかみこども』で家族に対するエモーションを格段に深化させていることに驚きます。とにかく泣きました。

 




第7位 『果てなき路』



7位、『果てなき路』!70年代アメリカン・ニューシネマの伝説的監督モンテ・ヘルマン、21年ぶりの新作~。長年ハリウッドから干されてて撮れなったらしいです。因みに、誰?って感じですが、クエンティン・タランティーノを見つけて世に売り出したのはこのおじさんです。

そんで今回、久々の新作の主人公となったのは、ハリウッドでの活躍を期待された若手映画監督。そう、『果てなき路』は映画づくりを描いた映画です。そして、「映画の映画」であり、「映画内映画内・・・映画」という多重構造を持っています。「映画的である」ことの皮肉とロマンチシズムが詰まったノワール映画。現実と映画の境目が溶けてなくなるような超不思議な感覚で包まれる。怪作であり快作であり傑作でした。

 




第8位 『アルゴ』



8位、ベン・アフレック先生『アルゴ』!あ、そういえば、去年のベスト10では前作『ザ・タウン』が3位でした。

今作『アルゴ』は偽SF映画(スター・ウォーズのパクリ映画)をでっち上げて、ロケハンの名目でイランに乗り込み人質を救出しちゃおう♪という何ともまぁ荒唐無稽な作戦モノ…。そこで、オープニングカットから役者の仕草までしつこいまでにリアリズムに徹している事によって、緊張に緊張が持続する仕掛けになってます。(これは映画オタクのベン・アフレックがオリバー・ズトーン監督『プラトーン』、『ウォール街』の演出法をお手本にしたらしい。)

何と言っても『アルゴ』の味わい深さは、昔ながらの映画の面白さがあるところ。ベン・アフレックは、ハリウッドの昔ながらのジャンル映画の面白さを現代風にアレンジ・脱構築するのが神的に上手です。処女作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』→フィルム・ノワール物、『ザ・タウン』→銀行強盗物の現代風アレンジでしたし。昔ながらの映画の面白さ、これ超大事よ!







第9位 『ふがいない僕は空を見た』



9位、またまた邦画。『ふがいない僕は空を見た』。宣言通り、「性」と「生」に真正面からぶつかった生々しくも清々しい傑作でした。監督は『百万円と苦虫女』や『俺たちに明日はないッス』のタナダユキ。脚本は『マイバックページ』、『リンダリンダリンダ』を手掛けた向井康介。パズルのピースとピースが組み合わされるように、《セックス》を軸に映画内世界がどんどん拡大してゆく様はとにかく逸品。邦画好きも洋画好きもとりあえず観とくべし。

 





第10位 『隣る人』

10位、ドキュメンタリー映画『隣る人』。児童養護施設「光の子どもの家」の8年間を撮ったドキュメンタリーです。何ですか、これ、涙が止まらないんですけど…。

「光の子どもの家」に8年間にわたって密着し、ただ寄り添うだけのカメラが映し出す日常。「私の全存在を受け止めて」と不安の中で揺れ動く子ども、自らの信念とその重さと格闘し続ける保育士さん、離れて暮らす子どもと再び一緒に暮らせることを願い人生を修復しようとする親。だれもが正しく生きてるんです!

絶対的な誰か(隣る人)が側にいてくれることが、これほどまでに根源的な欲求なのか。とてつもなく温かい85分ですが、裏側に8年間密着し仕上げた刀川和也監督の映画づくりへのただならぬ気迫を感じました!宇多丸師匠の言うとおり、すっかり「一人で大きくなった気でいる」、すべての大人に観てほしいです。


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というわけで、以上が僕が選んだ2012年ベスト10になります。正直どれも大好きなのでその日の気分次第で9位~2位は変わると思います。特別賞としてはポレポレ東中野で鑑賞した山戸結希監督の学生映画『あの娘が海辺で踊っている』です。暴力的で荒削りなすごい作品でした。

やっぱり映画って最高です。映画館って最高です。映画ファンって最高です。

2013年、社会人になっても映画を観よう。

オーソン・ウェルズは24歳で『市民ケーン』を撮った。来年は23、僕も頑張ります。

そんな感じで、今年もよろしくお願いします。