2012年2月12日日曜日

ドラゴン・タトゥーの女


2011・アメリカ・スウェーデン 日本公開中
監督:デヴィッド・フィンチャー
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:スティーグ・ラーソン
出演:ダニエル・クレイグ・ルーニー・マー、クリストファー・プラマー、ジュリアン・サンズ、ステラン・スカルスガルド、スティーヴン・バーコフ、ロビン・ライト・・・

昨日、デヴィッド・フィンチャー監督『ドラゴン・タトゥーの女』を日劇にて観てきました。予想以上の逸品に感動したので、レコメンドさせていただきます。ネタバレは避けますのでご安心を。

まず前知識としての、あらすじです。
  月刊誌「ミレニアム」で大物実業家の不正行為を暴いたジャーナリストのミカエル(ダニエル・クレイグ)。そんな彼のもとに、ある大財閥会長から40年前に起こった兄の孫娘失踪(しっそう)事件の調査依頼が舞い込む。連続猟奇殺人事件が失踪(しっそう)にかかわっていると察知したミカエルは、天才ハッカー、リスベット(ルーニー・マーラ)にリサーチ協力を求める。

原作はスティーブ・ラーソン氏による言わずと知れたベストセラー超濃厚ミステリー『ミレニアム』。これは母国スウェーデンで三部作として映画化されています。





 で今回、ハリウッド映画化のデヴィット・フィンチャー版『ドラゴン・タトゥーの女』。

まず、オープニングクレジット。グロテスクで生々しくも芸術的な映像美。ツェッペリンの『移民の歌』(アアアーアってやつ)を背景にうごめく漆黒の液体。これはリスベットの心の傷を表現してるとか。兎にも角にも、超絶カッコイイ。映画にフィンチャー印がくっきりと刻印され、物語は幕を開けます。


物語の軸となるのは、リスベットとミカエル。
・リスベット(ルーニーマーラ)⇒ドラゴン・タトゥーの女。ゴスファッションに身を包み、背中にドラゴンのタトゥーを刻む23歳の天才ハッカー。分厚い鎧の中に渦巻く憎悪、孤独、暴力を携える。
・ミカエル(ダニエル・クレイグ)⇒雑誌『ミレニアム』のジャーナリスト。大物実業家ヴェンネルストレムの不正を暴きながらも名誉毀損で有罪判決を下され、ハリエット事件の真相解明を依頼される。ダニエル・クレイグだけにとてもセクシー。

今回、フィンチャー自身が語っているように映画の中心軸に据えられているのは、この二人の関係性。そして、何といっても、リスベットの存在の大きさ。このドラゴン・タトゥーの女であるリスベットが魅力的なこと。パンクな天才的ハッカーとしてだけでなく、瞬時の情報分析能力を有し、レイプ魔豚野郎に天誅を下す反骨精神。ダークでアウトローな鎧の隙間からもれる人間臭さや恋心。それをそこはかとなく醸し出すルーニー・マーラとそれを演出するフィンチャーは流石。


 高福祉国家、幸福社会であるスウェーデン。しかし、それの裏側に蠢くのは女性差別、性犯罪、暴力・・・。どんな社会でも存在する生きることを許されないアウトロー。その象徴がリスベット。この個人の反抗が腐敗した社会への反駁へと繋がり、映画そのもののエネルギーとなって、観る者に迫ってくる。

 リスベットというキャラクター像を造形しただけでも、この映画の価値は確かにあると思う。ニューダークヒロインと言われているが、まさに。

 フィンチャーの世界観醸成力も素晴らしい。ダークブルーで冷えきった北欧の世界、土地特有の空気が、作品にキレを持たらしている。ポランスキーの『ゴースト・ライター』にも似た空気感。

 一方、フィンチャーファンとしては『セブン』などの彼の凶暴性を期待してしまうかもしれない。でも、本作において、それはあくまで物語上のファクターであり、本筋のミカエルとリスベットに主眼を置いて逸品に仕上げている。原作へのリスペクトが感じられ、これはとても好印象。フィンチャーの職人としての貫禄ですかね。

 凍てつくほど冷たいダークな空気こそフィンチャーの持ち味。『セブン』、『ゲーム』など初期衝動でこそ顕著です。『ベンジャミン・バトン』や『ソーシャル・ネットワーク』では手堅く人間ドラマとして傑作ですが、やっぱり個人的にはフィンチャーには冷たいダークさを期待してしまう。


 『ドラゴン・タトゥーの女』はそんな凍てつくダークな空気が画面から醸し出す。リスベットの造形然り、登場人物は本当に魅力的。登場するキャラを好きなる感覚。これはシリーズもので最重要なこと。一方で、民族主義、権力腐敗など、批判的社会派ドラマとしても成立。


 フィンチャーが彼のフィルモグラフィーの中で培ったあらゆる要素が有機的に結びついた集大成的作品。傑作と言える知的ダーク・ミステリーでした。




こちらがその超絶かっこいいオープニング・クレジット。