2011年6月2日木曜日

《ぼくらのゼロ年代。》 メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬

 
2005・アメリカ・フランス
監督:トミー・リー・ジョーン
製作総指揮:リュック・ベッソン、ピエール=アンジェ・ル・ポーガム
製作:マイケル・フィッツジェラルド、トミー・リー・ジョーンズ
脚本:ギレルモ・アリアガ
出演:トミー・リー・ジョーンズ、バリー・ペッパー、フリオ・セサール・セディージョ、ドワイト・ヨワカム、ジャニュアリー・ジョーンズ、メリッサ・レオ・・・

アメリカ・テキサス州。国境にほど近い荒れ地で、メキシコ人カウボーイ メルキアデス・エストラーダの死体が見つかる。純朴なメルキアデスを心から愛していた友人ピートは、深い悲しみに襲われながらもある約束を思いだす。「俺が死んだら、故郷ヒメネスに埋めてくれ」。ひょんなことから、メルキアデスが国境警備隊員のマイクに殺されたことを知ったピートは、マイクを拉致。彼に無理矢理メルキアデスの死体を担がせ、メキシコヘの旅に出発する・・・。

 ゼロ年代、隠れた秀作といったところだろうか。

 監督はなんと名優、トミー・リー・ジョーンズ。彼といえば、思い浮かぶのは、アメリカの荒野の過酷の中に生きてきた男の深くしわだらけの顔。でも、僕の中で彼といえば『メン・イン・ブラック』のKですかね。BOSSのCMの宇宙人ジョーンズさんといえば、思うかぶ方も多いはず。
 そんな男の中の男、トミー・リー・ジョーンズの鮮烈な監督デビューは果たした作品が『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』。カンヌで男優賞と脚本賞の2賞に輝き、期待を裏切らない、いぶし銀の男の映画に仕上がっている。

  物語は、テキサスのカーボーイのピート(トミー・リー・ジョーンズ)と、流れ者のメキシコ人のメルキアデス・エストラーダの出会いから始まる。共に働くようになった彼らは、すぐに打ち解けて親友になります。メルキアデスはピートに言います。
「俺が死んだら故郷のヒメネスに埋めてほしい」
 一方、新しくこの土地の国境警備員に就任したマイク(バリー・ペッパー)は、勘違いからメルキアデスを射殺してしまいます。メルキアデスはコヨーテに食い荒らされた状態で発見されますが、事件はもみ消され、早々に捜査は打ち切られてしまう。ピートは親友との約束を果たすため、むりやりマイクを拉致し、旅に出発する。

 脚本を手掛けたのは、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督とのコンビで知られるギレルモ・アリアガ。『アモーレス・ぺロス』、『21g』、『バベル』など、時間軸と場所が複雑に入り組んだ群像劇の中で、人間関係を組み立て直すことによって生と死の境界線の溶けたような、本来矛盾するはずのリアリズムと寓話性が共存する物語を紡ぎだしてきました。
 本作でそのスタイルを維持しながら、決して言葉や表情に感情を表すことのない西部男たちや、そんな男たちの社会に生きる女たちの、メランコリックな心象の向こう側にある人間そのものの孤独を浮かび上がらせています。

 こんな場面があります。妻を故郷に置いてきたため、孤独に耐えかねているメルキアデスを見かねて、ピートは彼に白人女性を紹介します。不法移民の彼は一緒に街に出ることで、国境警備隊に見つかることを心配しているのですが、ピートの「俺に任せておけ、なに大丈夫さ。」といった表情に、なにとなしに安心するというシーンです。これこそが友情の証というやつです。男泣きもの。
 
また、あまりに手厳しい主人公にいたぶられながら人生を学んでいくマイクを演じたバリー・ペッパーの役どころも面白い。人間として未熟な男、大人になりきれていない男、という役柄を体当たりでありながら、観客にこのマイクの気持ちがものすごくよく分かると思わせてしまう。というのは、劇中における「人間の弱さ」そのもののアイコンがこのバリー・ペッパー扮するマイクなのです。

 友情とは何か。贖罪とは何か。信仰とは何か。信念を持つこととは何か。・・・
実に多くの問題提起をしながら、それらをひとつひとつ作品の中で消化し、最終的には答まで提示する。同時に男の仁義や友情といったテーマを扱いながらもセンチメンタルなタッチを抑え、ラストにはいずこへと去っていく主人公の背中がほろ苦くも崇高な余韻を残す。まさにゼロ年代版男泣き映画の傑作でしょう。

PS
映画の中で出てくる盲目の老人役は、なんとザ・バンドの リヴォン・ヘルム。恐ろしくいい味出しています。


1 件のコメント:

  1. トミーリージョーンズのテキサス英語に触れてみたくて、この映画をDVDでみました。「隠れた秀作」まさにその通り、素敵な作品との出会いに感謝です。「盲目の老人役は、なんとザ・バンドの リヴォン・ヘルム」驚きです!とても印象に残っていた場面でした。リヴォン・ヘルム、昨年亡くなりましたね。悲しいです。

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