2011年6月14日火曜日

《ぼくらのゼロ年代。》 レクイエム・フォー・ドリーム


2000・アメリカ
監督:ダーレン・アロノフスキー
製作総指揮:ボー・フリン、ステファン・シムコウィッツ、ニック・ウェクスラー
製作:エリック・ワトソン、パーマー・ウェスト
脚本:ヒューバート・セルビー・ジュニア、ダーレン・アロノフスキー
出演:ジャレット・レト、ジェニファー・コネリー、エレン・バースティン、マーロン・ウィリアムズ、クリストファー・マクドナルド・・・

 『ブラック・スワン』、傑作でしたね。ぼくらのナタリーが、あ~なことや、こ~んなことをしたり、されたりしてましたからね。それと、僕の周りでは、「いや~怖かった」「いや~痛かった」という声が多いです。
 それもそのはず、監督はダーレン・アロノフスキー。
 『ブラック・スワン』=ナタリーが凄い(色んな意味で)と一刀両断に語られることが多いかと思います。しかし、今回はその悪趣味監督ダーレン・アロノフスキーに注目してみたい。
 というわけでダーレン・アロノフスキー監督、ゼロ年代の怪作『レクイエム・フォー・ドリーム』を取り上げる。

 まず、アロノフスキー監督は人間や都市に潜む闇の存在をえぐりだし、観るものの神経を逆撫でするアバンギャルド演出が作風の作家です。これはデビュー作『π』や、『ブラック・スワン』にも顕著です。『ブラック・スワン』でも、背中から首筋にかけてがゾクゾクする感覚に襲われた方も多いはず。これこそが、まさにアロノフスキー演出の真骨頂。
 その悪趣味演出が、人物描写において異常なまでに炸裂したのが本作。

  
 『レクイエム・フォー・ドリーム』は現代都市生活者に見られる中毒症状一般についての考察であり、自滅してゆく人々の生態観察でもあります。掃き溜めのようなコニーアイランドで、いつかどこかにある幸福を夢見ながらドラッグにおぼれてゆく若者たちと、大好きなテレビ番組に出演しようとダイエット薬中毒になり、現実と虚構の区別のつかなくなって行く主人公の母親の姿を描いゆきます。

 『レスラー』などでも精神と肉体の感覚世界にアプローチしているアロノフスキーは、原作の地獄絵図とその作風と摺合せ、非常に痛みを込めて描写することに成功しています。精神ゆがみは肉体に反映し、肉体のゆがみは精神に影響を及ぼしてゆく。この精神と肉体の関係は切り離すことは決してできない。だからこそ、人は心や身体に痛みを感じたとき、薬や酒やテレビなどに夢中になることで精神と肉体を麻痺させることを欲し、一時的な恍惚におぼれる。

 しかし、この恍惚こそが、「地獄の底に通ずる穴の入り口」で、そう悟ったときはもう遅い。後ろに戻ることはできず、覚めることのない恍惚感を求めて、現実からの逃避の欲望は加速します。


 「夢」や「あいまい」を心どこかに持ち続けているのが本作の登場人物たちです。しかし、現実ではそんな主人公たちが生きにくい。本作には「夢」や「あいまい」を拒絶する絶対的な現実世界への厳しき認識があります。

 でも一方では、人間は夢をもつことなしに生きることのできない生き物です。『レクイエム・フォー・ドリーム』は、そうした矛盾した現実から逃避した彼らを、悲しき哀れな生き物として描きます。それには、「残酷な現実」と悦楽に浸ることでそこから必死に逃げる主人公たちへの「優しさ」を感じるのです。タイトルの意味するところはそこです。「夢のための鎮魂歌」。

 「シネマ秘密基地」では、僕が観て、責任をもっておすすめできる作品しか取り上げていないつもりです。しかし、『レクイエム・フォー・ドリーム』は100%の肯定でもっておすすめすることはできません。しかし、それぐらい凄まじい破壊力を持った作品といえます。アロノフスキーの地獄巡りに同行する勇気のある方は是非ご鑑賞ください。

0 件のコメント:

コメントを投稿