2011年4月7日木曜日

秋刀魚の味


1962・日本
監督:小津安二郎
製作:山内静夫
脚本:野田高梧、小津安二郎
出演:岩下志麻、笠智衆、佐田啓二、岡田茉莉子、三上真一郎、東野英治郎、杉村春子、中村伸郎、北竜二、吉田輝雄、牧紀子、三宅邦子、加東大介、岸田今日子

 「あ~。日本人で良かったな。」  最近こう思ったときってありましたか。

 「こんなときにそんなこと思うわけねぇだろ!不謹慎なやつめ!」こう言われてしまうと元も子もないのですが・・・。

 地震、台風、火山、戦争。何度この国はめちゃくちゃになってきたことでしょう。そして今も。もしかしたら本当に日本は不幸な国なのかもしれない。ふとそう思ってしまいます。

 しかし、そのなかで日本人は自然災害や戦争と向き合い、時に上手にいなしながらそれらと共存してきました。それゆえ、この民族は本当に独特な感性や価値観を持っているといえるのではないでしょうか。
 そう考えると、この国を世界的な先進国にまで発展させ、同時に異常なまでの文化的洗練性を保持している日本人という民族は、世界的に類い希な能力があるのかもしれない。そして、僕はその独自の感性と勤勉さに触れると、この民族の一員であることが本当に誇らしいと感じる時があります。

 でも、こう思うことは日頃たまった泥を掻き出すようなことです。ふとその誇りを普段忘れてしまい、日々を堕落して暮らしてしまうことも多い。ここら辺は本当に自分が情けないと思います。
 そして今回ご紹介する作品も、日頃たまった泥を一気に掻き出してくれます。本人であるとこが本当に良かった、誇らしいと心から思わせてくれます。日本人の感性を昇華した映画です。



というわけで、小津安二郎監督、遺作『秋刀魚の味』。
壮年の会社員である周平は、既に妻を亡くし、の路子と次男の幸一との3人暮らしをしていた。ある日、周平はクラス会の打ち合わせで同級生の堀江に娘を嫁に出すよう勧められる。しかし、周平は、家庭を切り盛りしている路子の幸せを思うものの、嫁に出すにはまだ早いと感じていた。後日、周平は、クラス会の席で招いた恩師から娘を嫁に出さなかったことの後悔を聞く。このことがきっかけで,周平は娘の縁談を考えるようになる・・・。

  小津監督といえば、やはり東京物語が一番最初に語られることが多いかと思うのですが、僕が小津作品のなかで一番好きなのは、本作『秋刀魚の味』。
 やはりこの作品も初老の父親(笠智衆)が結婚適齢期の娘(岩下志麻)を結婚させようとする話が中心に、長男夫婦の話、父の中学時代の同窓会や先生(東野英治郎)の話など、この父親の半径5メートルの風景を映しています。

 鎌倉を舞台にした古き良き日本の佇まいへの憧れに満ちていた『晩春』からは、既に13年も経っています。そして、『東京物語』からも早や9年、1962年(昭和37年)には既に高度成長の入口に立っていた日本。『Always 三丁目の夕日』から数年後、電化製品の普及等豊かになり始めた半面、味気ないアパート住まいの東京の日常の姿を描いています。ゴルフに背伸びするサラリーマンの姿なんかも描かれます。常に日本の《家族》を映し出してきた小津監督ですが、それぞれの作品に登場する家族像には微妙に変化が見られます。それもまたおもしろいところではある。

 なかでも僕が印象的だった場面はトリスバー「かおる」でのシーン。笠智衆扮する平山周平と、加藤大介扮する坂本芳太郎と、岸田今日子扮する「かおる」のマダムが戦争へ思いをふけらせ、軍艦マーチのレコードをかけて敬礼ごっこをする場面です。3人が敬礼をし合って、お互いに笑みを浮かべて見詰め合う。実に理解しがたい日本的な?情緒がバーの中に充満するのです。そしてなにより不用意にこのシーンは長いのです。  では、なぜ?

 平山は戦時中駆逐艦「あさかぜ」の艦長で、坂本はその艦の水兵でした。彼らは戦争賛美者であるのか?右翼的な愛国主義者であるのか?いや戦争の辛苦を忘れそのノスタルジーに酔いしれているだけなのか?このトリスバーでの敬礼ごっこはおそらく欧米人には元より、戦争を知らない僕らにさえ理解できない光景でしょう。そして、このシーンの会話劇は、私たち日本人にとっても戦後を読み解く上で実に不可思議だが読み解くべき重要な《映像の記号》といわなければならない。

 もとより彼ら平山、坂本は決して戦争を賛美する軍国主義者ではなありません。

 そこで、この敬礼ごっこへとつながる平山、坂本の会話劇。面白いのはここでの平山艦長の坂本の問いに対する返事。いいんだか、悪いんだか、のらりくらりとして、どこまでも曖昧である。(まぁ、それが実に小津的というか笠智衆的というか。)しかし艦長は坂本との話しが不愉快なのではないのであり、むしろ面白がっていると感じられるのです。
 そのなかで最も注目すべきは、平山艦長のせりふで、「けど、負けて良かったんじゃないか?」でしょう。そしてそれに対して坂本も同意するのです。彼らは決して言い争うことがない。
 
 「けど、負けて良かったんじゃないか?」このせりふに小津監督の戦争観が垣間見えます。同様のセリフが1956年の『早春』の台本からも見ることができます。

 「けど、負けて良かったんじゃないか?」 小津安二郎という作家は、反戦を唱えることを主眼としているのではありません。結果論として負けてよかったと言うのです。小津監督が、威張りちらす軍人に対してその品性が愚劣であると言うように、それは彼自身が中国に従軍した戦争経験に基づくと考えられます。

 つまり彼はとって大きいのは人間の生き方、あり方、つまり人間の気品の問題なのであり、そういう意味で日本人は負けて品性を取り戻したと考えるのでしょう。
 戦争に負けて日本はどん底まで成り下がり、今までの自らの愚劣さを痛いほど刻み込んだ。でも、それが結果として、日本人の品性を取り戻した。それが小津の戦争観であり、何十年かたって結果としてそうあってほしいという願いなのかもしれません。

 だから、彼の作品は日本人という民族特有の気品にあふれ、それを見ると僕らは感動する。「あぁ、日本人で良かったな。」と思う。

 さて、この震災を日本人はどうとらえるべきなのだろう。  そのヒントを小津監督はそっと示してくれているようです。





 ああ!言い忘れましたが、『秋刀魚の味』では、女優陣が本当に魅力的です。平山の娘を演じた、岩下志麻。とっても若いし、なによりビックリするぐらい美人です。あと、トリスバーのママを演じた岸田今日子が扉から入ってくるシーンはとにかくエロい。なにせ湯上りで肩を切って入ってくる岸田今日子様だから。



《小津安二郎の様式美》


秋子(岡田茉莉子)の
・薄いイエローのシャツと薄いイエローの牛乳キャップ
・白いエプロンと白い牛乳
・ダークグリーンのスカートとダークグリーンの湯のみ 




1 件のコメント:

  1. Your blog is great你的部落格真好!!If you like, come back and visit mine: http://b2322858.blogspot.com/

    Thank you!!Wang Han Pin(王翰彬)From Taichung,Taiwan(台灣)

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