2011年5月5日木曜日

《ぼくらのゼロ年代。》ザ・ロイヤル・テネンバウムズ



2001・アメリカ
監督:ウェス・アンダーソン
製作総指揮:オーウェン・ウィルソン、ラッド・シモンズ
製作:ウェス・アンダーソン、バリー・メンデル、スコット・ルーディン
脚本:ウェス・アンダーソン、オーウェンウィルソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、グウィネス・パルトロー、ベン・スティラー、ルーク・ウィルソン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイ、ダニー・クローヴァー、シーモア・カッセル、アレック・ボールドウィン・・・

 テネンバウム家の長男・チャス(ベン・スティーラー)は10代で金融ビジネスマン、養女のマーゴ(グウィネス・パルトロウ)は同じく10代で劇作家、次男のリッチー(ルーク・ウィルソン)は天才テニス選手。そんな天才一家も、有能な弁護士だった父・ロイヤル(ジーン・ハックマン)の不誠実で離れ離れ。妻・エセル(アンジェリカ・ヒューストン)と別居して22年、家族と何年も口を聞いていないロイヤルは、滞在するホテルの支払いも滞り、もう一度「家族」を取り戻そうと一計を案じる…。

 ゼロ年代にその才能を花開かせたフィルムメーカーのひとりとして、ウェス・アンダーソンの名を上げるのは、まず間違いないだろう。1969年生まれの彼は、70年代のポップソングのように、力強くカラフルで、ナイーブで、心優しい作品を特徴とする才能。

 彼の名をまず世に知らしめたのが、98年の『天才マックスの世界』である。この作品は人と違うことの孤独感を全く見せない天才少年マックスの、恋愛と成の青春物語、意思疎通の不全を主題とした半自伝といえる。またこの作品に展開される、偏屈的にまでに管理された色彩や小道具や音楽によってえがかれる人工的な映像は、「天才ウェスの世界」として、その後の作品にも受け継がれ、いわゆる《作家性》というやつとして確立してゆく。また、意思疎通の不全はウェス作品の共通テーマです。


 そして、その作家性を貫き通し、カルト的人気から見事大衆からの支持を勝ち取った傑作が本作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』。

 地方都市の名家の栄光と没落を描いたオーソン・ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』にインスパイアを受けたという本作は、ジーン・ハックマン扮する放蕩親父に翻弄されてきた元・天才のテネンバウムス家という家族の現在を描く物語です。テネンバウムス家の子供たちは幼くしてそれぞれの才能を発揮した元・天才なのである。だがそんな彼らは現在、成長とともに壁にぶつかり、人生の道を進ない。そんな過去という殻を破れずにいる、半分大人。彼らの苦悩の根底にあるのは父親の愛情の欠乏とコミュニケーション不全。それが解決せぬまま両親は離婚し、子供たちは大人になってしまった・・・。

 しかし、これを聞くと、シリアスドラマかと思うかもしれなが、本作はポップコメディ。というのも、家族と彼らを取り巻く人々のキャラクターが濃く、滑稽で思わず笑ってしまうような奴ら。ふつう、退屈なシリアスドラマとして描かれるような題材にもかかわらず、人間味あふれるキャラとポップな音楽でコメディ調で描きつつ、コメディには終わらず登場人物の内なる心をしっかり描写し、再生へと結び付ける。これはウェス作品持ち味となっています。

前に続き、テーマは意思の疎通不全(これは続く『ダージリン急行』にも受け継がれます。)そして家族という場の完全に構築された映像によって、この家族の自閉的で観念的な世界をポップな感性で映像化している。 彼らは自分の抱えている問題で頭がいっぱいになり、他人のことが見えなくなっている。挫折感を味わったことで、臆病気味でもある。
 このように、家族でありながらお互いがお互いを理解できず、まるで他人のようになってしまっているという家族という最少単位の集団における絆の希薄化とその再生は、ゼロ年代映画の大きな特徴のひとつと言えます。例を挙げるならば、『アメリカンビューティー』、『あの頃ペニー・レインと』、『ビック・フィッシュ』、『宇宙戦争』、『チェンジリング』、『終わりで始まりの4日間』、『イン・トゥ・ザ・ワイルド』など。邦画では『トウキョウソナタ』など。《家族》がテーマの作品が量産された時代ですね。これは、アメリカ式の個人主義の限界を深層心理的に訴えています。

 そして本作で、そんな孤独な家族の内なる感情をあぶりだすのが、見事に選曲された70年代の音楽の数々。ウェス・アンダーソンは抑圧された感情を音楽の力によって解き放ちます。このように映画における音楽というファクターが見直され、ストーリーテリングにおける重要な役割として採用する作家もゼロ年代的な印象を受けます。 
とくにウェス・アンダーソン、キャメロン・クロウ、ジャック・ブラフ、ジェイソン・ライトマンなどはその手腕は、ハル・アシュビーの『ハロルドとモード』、マーティン・スコセッシの『ミーン・ストリート』に優るとも劣りません。

 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』。いま生きることに手をこまねいている人へ向けた贈り物のような映画といえるでしょう。

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