2011年2月12日土曜日

ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-

 


2007・イギリス
監督:エドガー・ライト
制作総指揮:ナターシャ・ワートン
製作:ニラ・パーク、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー
脚本:エドガー・ライト、サイモン・ペグ
出演:サイモン・ペグ、ニック・フロスト、ジム・ブロードベンド、パディ・コンシダイン、ティモシー・ダルトン、ビル・ナイ・・・

 クエンティン・タランティーノ。その世紀末的な名前と作風に映画新時代の到来を感じたのはいつだろう。彼やティム・バートンに続くようにピーター・ジャクソン、ギレルモ・デル・トロなど、21世紀、映画界はオタク監督によって、新時代が切り開かれていると言っても過言ではありません。そしていま、そのタランティーノが猛烈な嫉妬と称賛をわき上がらせずにいられない才能がいる。それが英国の天晴れな映画おバカ、エドガー・ライト。ゾンビ映画への愛を昇華させた傑作『ショーン・オブ・ザ・デッド』では、ゾンビ映画の神様ジョージ・A・ロメロ監督から自らの弟子と認められた才能。
 そして『ショーン・オブ・ザ・デッド』と同じ主演コンビ(サイモン・ペグは脚本も共同執筆)と組んだ本作『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』(以下ホット・ファズ)は、オタクのみならず、映画好きなら誰もがとんでもなく楽しめてしまう、究極の娯楽映画!!  タランティーノが認めるオタク監督だけあって、本作でも刑事モノを中心にスリラー、ホラー、マカロニウエスタン、東宝怪獣映画に至るまで、映画ファンをニヤリとさせる映画へのオマージュの数々(パクリじゃないよ)が見られます。   あらすじは、

 ロンドンのエリート警官ニコラス・エンジェル(サイモン・ペグ)。優秀すぎるという理由で、田舎の村へと強制左遷。そこでも張り切るエンジェルだが、アクション映画オタクで、どんくさいバターマン(ニック・フロスト)と相棒を組まされる。ある日、村で怪死事件が発生するも、殺人事件だと主張するエンジェルは相手にされず・・・。

 本作品の冒頭で抜群な能力と生真面目な性格で卓越した業績をあげている主人公ニコラス(サイモン・ペグ)は、ある日突然田舎町に左遷を命じられるます。辞令に納得できないニコラスに上司たちは真顔で言います。「君があまり優秀だと我々が無能にみえるから迷惑なのだよ。」ニコラスは毅然として上司に刃向かいます。
「あなた方がそんなことをしたら僕の同僚たちが黙ってない!!!」
ニコラスが颯爽と部屋を振り返ると、同僚たちは、「さようならニコラス、行ってらっしゃい」という横断幕を掲げて、みんな万遍の笑みを浮かべている・・・。      面白すぎるっ!!!

 一方、コメディ映画として実に一級品なのですが、物語のテンポがアクション映画ばりに異常に良い。それを裏付けるのは編集とカット割り。一言で言うならば、小気味良いのです。というのも、監督エドガー・ライトは、編集技法についてはトニー・スコットやスコセッシに影響を受け、彼らをさらに誇張させた感じだと語っています。しかし、もちろんトニー・スコット、スコセッシの影響が見られるのですが、早々としたカッティングをアクションの空気を醸しだす視覚演出として用いたスコセッシやトニー・スコットとは異なり、エドガー・ライトの執拗なまでのマシンガン・カッティングは画面全体からアクションがないにも関わらず、アクション映画ですよ、と感じさせられる演出なのです。主人公の活躍を馬鹿馬鹿しく語ってしまうユーモアでもあるから、視覚技法の更新に止まらない演出の巧みさは非凡なる才能を感じます。もしかしたら編集によってアクションとユーモアを織り交ぜる部類では、ガイ・リッチーに近いのかもしれない。

 でも、エドガー・ライトがロメロに認められた理由は彼同様、コメディ映画でありながらその作品にはしっかりとしたメッセージ性があるからでしょう。
 以前、『恐怖省』の回でフリッツ・ラングという監督を紹介しました。フリッツ・ラング作品に多く見られるように、映画は歴史的にみて一方で政治に利用され、もう一方でそれに対抗し表現の自由を拡大するプロパガンダのメディアとして発展してきました。つまり、映画はファシズムと戦い、時の権力者を風刺し、その時代の社会背景を描いてきたのです。
 では、独裁者がいなくなった現代における抵抗すべき権力者は誰か。それは大衆でしょう。民衆主義が定着した今独裁者は存在せず、それに取って代わったのは「多数派」です。独裁者としての特定の個人が存在しなくても、均質的な集団というのはファシズムのように横暴で、並外れて突出する人を寄ってたかって叩き潰します。集団で共有する価値基準に従わない人を排除する。そして、絶対的な権力者である大衆には誰も逆らわない。
 これまでの映画が権力を濫用して個人の尊厳を踏み潰した独裁者に反抗してきたように、本作『ホット・ファズ』では、現代その独裁者に取って代わり社会を支配する大衆というファシズムに立ち向かう男の姿を描いています。この『ホット・ファズ』は、もちろん腹の底から笑えるんだけど、ニコラスが村の人々から村八分状態追いやられるところとかは恐怖を感じるし、エンディングには感動をすら覚える。コメディ映画なんだけど、ただのコメディで終わらせないところがエドガー・ライトの魅力。実に現代的。

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