2011年2月8日火曜日

エターナル・サンシャイン


アメリカ・2004
監督:ミシェル・ゴンドリー
製作総指揮:チャーリー・カウフマン、ジョルジュ・ベルマン、デイヴィッド・L・ブシェル、リンダ・フィールズ、グレン・ウィリアムスン
製作:スティーヴ・ゴリン、アンソニー・ブレグマン
脚本:チャーリー・カウフマン、ミシェル・ゴンドリー、ピエール・ビスマス
出演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、イライジャ・ウッド、キルスティン・ダンスト、マーク・ラファロ、トム・ウィルキンソン・・・

 もうすぐバレンタイン、本当にこんなバカげた風習、誰がつくったのでしょうか。僕はそんな時代の波に逆らう漢です! 
 言い忘れましたが、「おめぇがモテねぇだけじゃねーか」とかいうツッコミはしないでくださいね。

 といっても、世間はバレンタインムードでいっぱいなので恋人たちの季節にぴったりのとびきりの傑作をご紹介したいと思います。
 『エターナル・サンシャイン』、監督はミシェル・ゴンドリー、今公開中の作品『グリーン・ホーネット』の監督です。『グリーン・ホーネット』は僕はまだ観ていないので分かりませんが、ミシェル・ゴンドリー監督はローリング・ストーンズやダフト・パンク、レディオ・ヘッド、ビョークなどなど錚々たるアーティストのPVを手掛けている映像作家で、ロックファンなら一度は彼のつくったPVを観たことがあるかもしれません。
 そしてなんといっても、この作品は脚本が素晴らしい。もう奇跡としか言いようがないです。『マルコヴィッチの穴』や『脳内ニューヨーク』など奇想天外なストーリー展開が持ち味のチャーリー・カウフマンを中心に作成されたもので、脚本を手がけたカウフマン、ゴンドリー、ピエール・ビスマスの3人はこの作品によって2004年度のアカデミー賞脚本賞を受賞しています。ゴンドリー監督の幻想的映像世界とカウフマンの巧妙なストーリー展開により、メビウスの輪のように入り組んだこの物語に引き込まれていく、そんな映画です。

 あらすじは、
恋人同士だったジョエルとクレメンタインは、バレンタインの直前に別れてしまう。そんなある日、ジョエルのもとに不思議な手紙が届く。「クレメンタインはあなたの記憶をすべて消し去りました。今後、彼女の過去について絶対触れないように-」。自分は仲直りしようと思っていたのに、さっさと記憶を消去してしまった彼女にショックを受けるジョエル。彼はその手紙を送り付けてきた、ラクーナ医院の門を叩く。自分も彼女との記憶を消去するため・・・。

 まずキャスティングに工夫が見られます。地味で暗めなジョエルをジム・キャリーが、エキセントリックで直情的なクレメンタインをケイト・ウィンスレットが演じるていますが、今までの役柄から見るとお互いの性格を交換したような形です。これをミスキャストと見るか、新鮮と見るかなのですが、明らかに後者ですね。ジム・キャリーの過剰なコメディ演技のイメージは全くなく、この映画の彼はとても自然です。イライジャ・ウッドがちょっぴり曲がった役を演じているのもおもしろい。
 
 そして、時間軸はバラバラでとっぴな発想と大胆な映像が満載とかなり変わった物語進行をします。そのため、初めに見た時は面食らうかも知れませんが、それこそが本作品の魅力で、一度流れにのれば、後は主人公と一緒に記憶を遡る旅に夢中になります。観る者を映像世界に迷い込むという映画独特の浮遊感で満たしてくれます。また、季節感を大事にしていたり、小道具の丁寧な描写など、映画好きを喜ばせる細かいディティールも素晴らしい。クレメンタインの髪の色に注目してみると時間軸の前後が分かったりします。これはこの映画を楽しむひとつのコツかも。



 そして、僕は本作『エターナル・サンシャイン』を観たとき『クリスマス・キャロル』の影響を感じずにはいられませんでした。
 『クリスマス・キャロル』というのはご存じディケンズの小説で、強欲な金貸しのスクルージ爺さんがクリスマスの夜に夢の中で彼自身の人生の過去、現在、未来のヴィジョンを見て、おのれ生き方の間違いを知り、目覚めるとすっかりよい人になりました・・・というお話です。おのれの人生を凝縮した時間のうちに幻視することによって「回心」を経験する、というお話です。
 一方、『エターナル・サンシャイン』は、主人公の青年ジョエル(ジム・キャリー)と恋人クレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)が喧嘩のあとに、それぞれ「記憶を消す」サービスを受けて、相手のことを忘れてしまう。そして二人とも相手が自分のかつての恋人であることを忘れたままに出会ってしまう・・・という設定です。   では、どこが『クリスマス・キャロル』かと言いますと、記憶を消去する手術のさなかにジョエルが自分の記憶の中に分け入って過去を「もう一度リアルに生きる」という経験をするところです。そうすると、過ぎ去ってしまって、もうその意味が確定したはずの過去の出来事が「別の意味」をもって甦ってくる。

 つまり、自分のしてきたことがどんなものかをもう一度別の視点から見たときはたして自分はどう思うのかということで共通です。しかし、『クリスマス・キャロル』でスクルージが自分のしてきたことが間違いだと気づかされるというどちらかと言えばマイナス面なのに、『エターナル・サンシャイン』はジョエルが自分の記憶を辿ることで、クレメンタインとの恋、酸いも甘いもすべてがかけがえのないものだと気づかされるというプラスの意味で描かれています。
 改めて、『クリスマスキャロル』のテーマ性が不変であり、現在でも世界中で愛されている所以を感じます。




 確かに無垢な心には、世界は新鮮に映るかもしれない。何もかもがゼロから始まれば、人生はやり直せるようにも思でしょう。では、はたして経験したどうしようもない苦しみや哀しみは無意味なのか。

 その答えは、あなたがジョエルと一緒に記憶を巡る旅を終えたときみつかるでしょう。

1 件のコメント:

  1. 先程のコメント言い回しがあれでした。
    書き下ろしたというより、このためにカヴァーした。が正解ですね。すいません。

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