2011年2月4日金曜日

特集三部作『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』



2003・アメリカ、ニュージーランド
監督:ピーター・ジャクソン
製作総指揮:ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、マーク・オーデスキー 
製作:ピーター・ジャクソン、バリー・M・オズボーン、フラン・ウォルシュ
脚本:ピーター・ジャクソン、フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン
出演:イライジャ・ウッド、ショーン・アスティン、イアン・マッケラン、ヴィゴ・モーテンセン、ジョン・リス=デイヴィス、オーランド・ブルーム、ジョン・ノーブル、ショーン・ビーン、ケイト・ブランシェット、ヒューゴ・ウィーヴィング、リヴ・タイラー、バーナード・ヒル、ミランダ・オットー・・・

 特集を組んでやってまいりました特集三部作『ロード・オブ・ザ・リング』もいよいよ最終章であります。
 ではさっそく行きましょう。『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』。あらすじは、
冥王サウロンの指輪を葬る旅に出た仲間たち。アラゴルンたちと別れてしまったフロドとサムは、ゴラムの案内で滅びの山へと近づいていたが、指輪を取り戻したいゴラムは、2人を陥れる計画を練っていた。一方、ヘルム峡谷の戦いに勝利したアラゴルンたちは、オルサンクの塔を襲撃したメリー、ピピンと合流する。再会を喜び合う間もなく、サウロンが人間の国ゴンドールを襲うと知ったガンダルフは、ゴンドールの執政デネソールに忠告するため、ミナス・ティリスの都へ向かった。
 
 本作『王の帰還』によって、映画史を塗り替えるこの壮大な三部作がついに完結です。感無量で何を書いていいのかわからないし書き出せばきりがないというのが本音です。僕同様、この映画に魅せられて映画狂に陥った方は多いと思います。

 まず物語のハイライトとして観る者を引き付けるのは、ミナス・ティリスの合戦です。もうこれは間違いなく後世にまで語り継がれる合戦シーンでしょう。三部作『破』にあたる『二つの塔』では、ろう城戦でしたが、『急』にあたる『王の帰還』ではまさに大戦争といった感じでしょうか。
 主要キャストがほとんど特殊メイクの『猿の惑星』(1968年、フランクリン・J・シャフナー監督)、宇宙SFというジャンルを一般化させた『スターウォーズ』(1977年、ジョージ・ルーカス監督)、CG合成の可能性を開いた『ジュラシック・パーク』(1993年、スティーブン・スピルバーグ監督)と、映したいものをフィルム上の絵に描くための技術は年々進歩してきたが、それらが皆ここに極まったといっていいでしょう。
 原作の世界観を忠実に再現しようとした監督・制作関係者の誠実さが伝わって来ると同時に、それを独自解釈し画面上に繰り広げている。幾層にも重なるミナス・ティリスの荘厳な城壁、荒涼としたモルドールの黒い大地、巨象の怪獣ムマキル、おどろおどろしい幽霊軍などなど、迫力あるシーンから細部まで原作ファンの期待をも裏切らない見事な映像化です。『二つの塔』の時にも言いましたが、映画館で鑑賞したとき、まさにすぐそこが戦場で、単身最前線へ放り出された感覚に陥ったのを覚えています。
 
 そして、特に印象的だったのが、味方の軍勢が実に人種的に西洋チックであるのに対し、敵の軍勢が人種的にアフリカ系を思わせたり、東洋系を思わせる点です。というのは、まずオーク軍勢の造形が、はっきり言うと黒澤映画の足軽っぽいんですよ。黒っぽい鎧をまとい、泥臭くて野蛮な感じがほんとにそれをほうふつさせる。一方、巨象の怪獣ムマキルの軍勢は、明らかに黒人なんです。僕は、おそらくこれは人類普遍の民族間衝突といものを底辺で描こうとしているかな~なんて思うのですが。
 まぁ、ピーター・ジャクソンはオタク監督ですから、合戦シーンは間違いなく黒澤映画の影響が見てとれます。




 「エモーショナルな演技と物語は、どんな特殊効果にも優る」。これは、ピーター・ジャクソンは、今回の経験を通して前記のことを学んだそうです。その発言からもの分かるように本作『王の帰還』の最大の魅力は、合戦シーンではないの明らかです。指輪を通して描かれるヒューマニズムなのです。
 これ以下は、僕の勝手な考察なので、あまりあてにはならないと思うのですが・・・。
 ロード・オブ・ザ・リングの興味深い点は、物語上活躍するのが社会的弱者であるという点です。特にホビット、これはその造形からもわかるように人間の子供です。つまりホビットとは、「子供」のメタファーとして描かれたものだと考えます。また、女性の活躍も目立ち、ローハンのお姫様のエオウィンが敵の大ボスを大ボスを倒してしますところとか。『エイリアン』ばりのフェミニズムさえ感じられるのです。 一方、この中つ国の人間という種族は、世界をめちゃくちゃにした欲深な種族として描かれてます。例えば、イシルドア始め、ボロミア、ゴンドールの執政デネソールなど。ほんとどうしようもない奴ばかり。
 その上で、本作『王の帰還』では、このホビットのフロド、サムとゴラムの描写が非常に丁寧な描写が目立ちます。これは、『二つの塔』の投稿でも触れましたが、ゴラムというのは強欲そのもののメタファー的存在です。
 ゆえに、僕はこの『ロード・オブ・ザ・リング』の構造は、人間がめちゃくちゃにした世界を「子供」というそれまで社会から疎外されたものが、世界を救いおうと、最後に強欲という人間の切り離せなっかた究極の醜い部分に打ち勝つというもので、この指輪を捨てる旅というものがホビットたちにとってもひとつのイニシエーションとなっています。 そして、その希望的観測こそトルーキンが後世に伝えたかったことのかも・・・    とひとりで思いにふけるのわけで・・・。

 ともあれ、やはりこれだけファンタジックな世界観でありながら、それぞれの登場人物が(良い意味で)とっても人間臭く感情移入させてしまうところはスゴイの一言。例えば、人間とエルフという種族を超えたアラゴルンとアルウェンの愛、アルウェンとエルロンド、あるいはエオウィンとセオデンなどの親子愛、そしてフロドとサム、メリーとピピン、レゴラスとギムリといった旅の仲間の友情。そのニューマニズムという観点でも、もちろん前2作あってなのですが、完結編が一番素晴らしい。特にサム!! ゴラムの策略によって裏切られ傷つきながらも、指輪を運ぶものの苦しみを思いやり、苦闘する姿はもう・・・。「指輪の重みは背負えないけれど、あなたなら背負えます!」
 また、サブタイトルにもなっているアラゴルンの王としての帰還へつながる伏線上に盛り込まれた人間の王達の苦闘、エルフの苦悩などでどんどん物語の奥深くに引き込まれ、指輪を葬った後のそれぞれの登場人物に待っている、それぞれのエンディングの場面では、心地よい涙が流れることは必至です。

 



 この歴史的叙事詩にリアルタイムで立ち会えたことは、ひとりの映画狂としての大きな誇りですね。
 3回にわたって実施してきた特集でしたが、つたない長文の中読んでいただいた読者の方、本当にありがとうございました。



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